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『陰翳礼賛』からの学び

久しぶりにこれからもずっと大切にしたいと思う本に出逢いました。世界の文豪、谷崎純一郎の名作『陰影礼賛』です。この本は、いかに日本人が古くから「暗がり」と「翳り」を美学として大切にしてきたかが書かれています。その美学は、日本家屋のつくりや美術品など、あらゆる暮らしに表れているとのこと。そして、古くから日本人は“美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える”ということです。

なぜ、この本に魅せられたのか―。一つは、今の自分の暮らしにもっと “陰翳”を取り入れて、忘れかけていた日本人が大切にしてきた美学を感じたいと思ったからです。夜、和ろうそくの灯りだけで過ごした時のことを思い出してみると、どれだけ心が静まり、穏やかさを感じたことでしょう。幼い頃、もう亡くなった祖父母の家に訪れた時の記憶をたどってみると、古い日本家屋のここかしこに、陰翳があったことを思い出します。暗い部屋にぼんやりともる灯りに幼いながらにほっとしていました。陰翳が暮らしにあることは、瞬時に心が静けさとつながることを助けてくれます。そして、そこに美しさを見いだして暮らしていた日本人の美学は、素晴らしいと改めて感じます。

陰翳を取り入れることは、目まぐるしい“動”の世界の中に“静”の質感をもつことにも似ているように思います。動と静、光と陰、明と暗。私たちの人生に二つが共にあることでで、美しいと思う心、そして自然の秩序を取り戻してゆけるような気がしています。

関 京子